私たち「梅本の里」は、地域で暮らす人が、性別や年齢、障がいの有無に関わらず、その人が持つ力を発揮しながら、周囲の人との関わりの中で、いきいきと暮らし、安心して人生を全うすることができるコミュニティづくりのことを「ごちゃまぜ福祉」と名付け推進しています。

「梅本の里」は松山市の小野地区という松山市最東部に位置した人口17,500人、7,800世帯、高齢化率30%強の地域にあります。
この小野地区で特別養護老人ホームやケアハウス、認知症グループホーム、デイサービスセンターなどを小野地区で3 拠点を経営しています。入居のお年寄りが約200 名、在宅サービスをご利用くださっているお年寄りが約350 人、職員数約200 名といった、こじんまりとした小規模法人です。
「梅本の里」の特徴の一つにオーナーがいない法人であるということがあります。多くの社会福祉法人は母体が病院であったり、民間企業、行政の第三セクター等々、いわゆる特定の出資者が設立する場合が多いのですが、「梅本の里」は今から40年前、まだ、松山に特別養護老人ホームが数えるほどしかなく、デイサービスの概念さえなかった時代に、日中お年寄りを預けて家族が身体と心を休めたり、在宅介護をしている介護者の悩みや辛さを共有する情報交換場としての「宅老所」が「小学校区に一つづつでもあったらいいよね」という呼びかけの下、勉強会を始めたのがきっかけになって設立されました。今から思えば、当時から寄せ集め、ごちゃまぜな法人のスタートだったとも言えます。

ご存じのとおり福祉の業界は女性が大勢活躍している職場です。どの福祉施設も70 ~ 80% は女性が占めるのではないでしょうか。「福祉」の「福」は「幸せの器、「福祉」の「祉」はそれを置く場所という意味だそうです。従って福祉は幸せな暮らしとも言い換えられます。男性には申し訳ないですが、毎日を楽しく、豊かに暮らしていくということにかけては、女性の方が圧倒的に上手です。暮らしの現場である福祉施設において、女性が活躍するのは、至極当然のことなのかもしれません。そんな暮らし上手な女性陣の多い職場で大きな問題となっていたのが出産・育児による女性職員の離職です。
めでたく子ども授かって、産休育休を取得した後の復職を待ち望むのですが・・・結局仕事と家庭・子育ての両立が難しくなって退職する。この繰り返しは「梅本の里」にとって大きな課題でした。どうにかして、子育てしながらも安心して働ける職場環境をつくらければ!! これからの子育ては女性だけじゃない! 働く人一人ひとりの暮らし方に合った働き方ができるようにならないと!! 最初に考えついたのが「事業所内託児所」でした。
そんな時、新しいデイサービスセンターを地域内にある商店街の一角につくる計画が持ち上がり、その中に「事業所内託児所」が完成したのです。これが、デイサービスセンター小梅です。

お年寄りから、こんなセリフを聞いたことはないですか?
「早くお迎えに来てほしい」、これは早く天国に行きたいって意味です。「デイに来ない日は一日中誰とも話さない」とか、孤独で気分の沈みがちな毎日を嘆きます。
しかし、これが一度、赤ちゃんと触れ合うと俄然元気になるんですね。「この子がはいはい出来るまで」「一人で歩けるようになるまで」「卒園するまで元気でいなきゃいけない」と、デイサービスを楽しみにしてくれるようになります。
私たちはいわゆる介護のプロ、食事やおトイレ、お風呂の介助はもとより、楽しい時間や余暇活動のお手伝いなど一定のサービスは提供できますが、お年寄り一人ひとりを心から笑顔にすることは簡単なことではありません。でもここにいる赤ちゃんがいとも簡単にそれをやってのける。赤ちゃんはスーパー介護職員だと改めて気づかされました。
また赤ちゃんも2 歳半ぐらいにもなると、もうお年寄りの手を引いてあげたり、車椅子を押してあげようとします。何らかの助けが必要なお年寄りと常に接している子どもたちは、困った人がいたら助けるのが当たり前な環境の中で、お年寄りの優しい眼差しと愛にあふれる誉め言葉の中で豊かに穏やかに成長していきます。
元はといえば、子育て世代の女性職員の離職を食い止めるために作りたかった「事業所内託児所」が、「デイサービス」とつながったことで、「子どもたち」と「お年寄り」という2つの存在がごちゃまぜになって、その周囲にいる私たちまでも幸せにするという奇跡を起こしてくれました。

そんな経験を経て、私たちがするべきことは、介護サービスを提供することだけではなく、「人が集まりやすい、集まってくる空間」をつくっていくことではないかと思うようになりました。
その集まった人たちが関わり合い、刺激し合い、学び合うことで新たなコミュニティが生まれてくる。そこに集まった人は、一人ひとが主役で、舞台に例えると、梅本の里の役割は、あくまでも照明や音響、舞台装置を支える黒子に徹するべきではないかと思うようになりました。
この辺りから私たちは福祉サービス業ではなく、空間創造業、機会創造業になりたいと考えるようになったのです。

福祉サービス業から空間創造企業への意識変革が起こり始めたタイミングで奇遇にも、石川県で「シェア金沢」という施設、と言うよりまさに「コミュニティ」を経営する社会福祉法人佛子園の雄谷良成さんの講演を聞く機会に巡り合いました。シェアは分かち合う、喜びも楽しみも苦しみも悲しさも分かち合えば喜びは倍増し、悲しみは半減するといった意味だそうです。
シェア金沢では、高齢者用の戸建ての住宅エリアがつくられていたり、学生が低価格で住むことのできるコンテナハウスがあったり、また住民が運営するスーパーがあったり等々、それまで私たちがイメージする施設の概念から、大きくかけ離れた、まさしく地域がつくられていました。中にはレストランも入浴施設もあり、福祉サービスの利用者と地域住民が混じり合って利用しているのです。
この素晴らしい取り組みに私はショックを受けました。こんなことしている組織があるのか、私たちがおぼろげながらイメージしていた空間創造を、ものの見事に体現されている地域がここにあったと興奮しました。
早速、愛媛県でも是非この取り組みを広げたいと申し出ました。そう、「ごちゃまぜ福祉」のフレーズは私たちオリジナルではなく、シャア金沢さんのパクりです。ちゃんと使用許可を頂いているのでご心配なく。
同行の職員も目を輝かせて「これをやりたい、これがやりたかった」と! 普段なら、賛否両論の我が法人ですが、この時ばかりは全員、納得の合意形成でした。そこから私たちの「ごちゃまぜ福祉」、松山市平井町における「いつもの」のプロジェクトがスタートしたのです。
私たち「梅本の里」が地元小野地区ですすめるごちゃまぜ福祉の拠点「いつもの」が2020年秋に完成しました。中には地域密着型の小規模特養、デイサービスといった福祉サービスに加えて、地域のみなさんにも気軽に立ち寄ってもらえるレストラン「いつものキッチン」と銭湯「いつもの湯」を作りました。キッチンと銭湯はB 型就労で働く障害者の方たちの職場でもあります。
いつものの入口にサインにこんな言葉を掲げています。
「いつもの」に行けばあの人に会える
そんな場所をつくりたくて
「梅本の里いつもの」はうまれました。
あの人とは、地域に暮らすみなさんです。
私たち一人ひとりが
それぞれに持つ力を活かし合いながら
人とのかかわりあいの中で
いきいきと暮らし
安心してその人生を全うすることがてきる地域を
「梅本の里いつもの」でつくっていきたいと思っています。
さて、現実にかえってどの業界もそうかもしれませんが、福祉業界も人手不足です。求人を出しても出しても、思うように働いてくれる人が見つかりません。そんな中で、今、私たちの大きな力になってくれているのが、介護職員のサポートをしてくれるスペシャリストたちです。
河村さんは60 代後半、長年、大工さんをされてきました。50 代から福祉施設で介護職員をされて一度リタイヤした後、最近、梅本の里で働いてくれるようになりました。大工さんですから、施設の修理営繕はお手の物、大活躍をしてくださっています。もう一人は、就労支援B 型で働く山内さん。山内さんは、普段「いつものキッチン」で働いています。一緒に働く支援員によると、山内さんはコミュニケーション能力が高く、楽しい会話でお客様を楽しませてくれているとか・・・。
一人ひとりは高齢であったり、障がいがあったりと、決してフルスペックな状況ではありませんが、それぞれが持つ力を発揮して施設に地域に貢献してくださっています。個性的で魅力あふれる梅本の里のスタッフにぜひ会いに来てください。

最後に次のイラストをご覧ください。ごちゃごちゃしたイラストで、遠くから見ると何が描かれているか、よくわからないかもしれません。しかし、一つひとつ、よく見てみると・・・「老人ホーム」や「デイサービス」「コミュニティレストラン」「銭湯」「産直市場」、子どもたちのための「学習塾」や「病児保育」等、いろいろな人が混じり合って暮らしている様子が描かれています。これが、私たちのめざす「ごちゃまぜ福祉」の未来デザインです。
私たちの取り組みは始まったばかりです。オーナーいない法人と紹介した通り、梅本の里は、地域のみなさんの持ち物だと考えています。これから地域の人たちとの意見交換を重ね、要望や期待も取り入れ、皆さんと共にどんどん成長させていきたいと考えています。
